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バック・トゥ・ベイビー



自分が小学生の時、父方の祖父が亡くなった。

4限か5限の時に教室のドアが開いて、担任じゃない先生が顔を覗かして自分の名前を呼んだ。

廊下を歩きながら祖父が亡くなった報告を受けた気がする。


そのまま早退して家に帰った。和室で祖父が横になっていて、祖母と母がいた。もしかしたら医者か葬儀屋がいたのかもしれない。自分の記憶の中で祖父は介護ベッドの上にいるのが常だったから、敷布団の中にいるのが視覚的に新しかった。


母は祖父の介護をしながら、「人は年をとって赤ちゃんに戻ってくのよ」と自分に言っていた。

毎日、祖父のおしめを替えている中で、3人の子を育ててきた母の実感としてその口から出た言葉は今でも形を変えずに自分に残っている。


生まれるから死ぬまでを「赤ちゃん」という始点・終点にする。そして一生を1つの円として捉えた時、最期を迎える前段階に「学生時代」のようなものがあるのかもしれない。と考える。

もう少し分けると、学生時代は前々段階で幼少時代が前段階。


自分の叔母は地域のサークル活動に複数所属しており、試合や発表会に向け活発である。太極拳・コーラス・卓球。

母はアルバイトを2つ掛け持ちしている。幼稚園の朝夕の送り迎え補助と近所のスーパーのバックヤードで惣菜や野菜を詰めている。今年73歳になるが、バックヤードのアルバイトでは「新人」かつ、「最年少」である。

なので、「重い荷物は自分が率先して運ばないといけない。」と母はこぼしていた。


掛け持ちのバイトと年金により、学生時代より稼いでいる母が全国特産の脂がのった肉や魚をお取り寄せして食べている姿を見ると、どうやら「赤ちゃん」になるまではまだまだかかるご様子だ。


イラスト:阿部隆太









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