陽太
テキスト:有富裕一
イラスト:阿部隆太
第四話 更科リサ
更科リサは浅草のロック座でトップのストリッパー。ロック座のステージに立つようになってから二年が経つ。元々はAV女優であったが引退後一年は貯金で過ごし、ストリッパーに転身した。
十九歳の時に現役大学生としてデビュー。高校時代は地味だったことが反動になり、華々しい大学デビューを志したが、結果受かったのは女子大。悶々とする気持ちを破りたいという願いから思い切ってAV女優になっちゃいました。という宣伝文句だった。
肩甲骨まである黒い髪、銀チタンの眼鏡と膝丈のスカート、ブラウスにカーディガンという「おとなしさ」という言葉を置き換えたようなルックス。未だに門限など破ったことがないと言われても納得してしまう。と思いきや、営みに興じれば熱量を感じさせる様がギャップを生み、世の男性から多大なる支持を得ていた。
デビュー作から数えること六作目まで単独作品であり、女優の清純さを全面に押し出すラインナップであった。デビューから単独作品が五作以上続くことはトップ女優としての証であり、メーカーもプッシュにつぐプッシュ。
しかし、入れ替わりが激しいのはどこの業界も同じ、特に新鮮さが売りなデビューをしてしまったが故に、七作目以降から「現役女子大生」という当初のイメージから逸脱した内容になってきた。
複数人での行為や、偽の媚薬を使ってトリップ感を強要するものまで、とっくに銀チタンの眼鏡女子というイメージは無くなっていた。
二十作品目になる頃には、ローションに浸した水泳帽を被った男の頭が入ってくるという有様だった。
お金以外にここまで続ける理由はなかった。デビューした時の年齢は二十三歳だったし、高校一年には体育祭の打ち上げ後の深夜の公園で人生七回目のセックスを人生四人目の彼氏としていた。
本名は「山際千紗」だった。
更科リサとしては二十六歳だが、山際千紗としては三十歳だった。
全盛期に比べれば撮影が入る日は1/10以下になっており、出演する作品も熟女モノのハードな内容だったり、新人女優をレズに開眼させる古株の女優という位置づけになっていた。出演料も落ちに落ち、その古株の位置でさえ、二十六歳の女優に奪われそうという状況だった。
周囲には、Vシネマに出演しながら、その演技力が買われ女優に転身する者や、企業する者、エッセイや暴露本を書く者といたが、どれもリサにできる代物ではなかった。元々商才も文章力も無く、演技力もなかった。
営み時の強烈な熱量は演技によるものではなく、セックスそのものに向かっていく、アスリートさながらの姿勢だった。そんな状況に頭を抱えている時に、所属事務所の社長から「ストリップやってみないか?」という誘いがあったのだ。リサも演技とはまた違う熱量を持つリサの行為に性欲以外の何かが揺さぶられる瞬間があったのだ。
リサは社長が紹介してくれたロック座で撮影のかたわら、ダンスの勉強をするようになった。元々運動神経とリズム感は人並みであったが、技術でなく、内側に秘めるパッションを表現することに重きを置いた彼女のステージは少しずつファンを増やしていった。
女優としてのリサのファンで観に来る客よりは、リサが女優だったことを知らずに一人のストリップダンサーとして観に来る客の方が定着していったようだった。
陽太は千紗のそういった情熱的な側面に惚れたのだった。
千紗にとって陽太は四人目の彼氏だった。高校では二つ上の先輩であったが、体育祭の縦割りで同じカラーチームだった。体育祭では各カラーチームでダンスを披露するのが最大のイベントであり、そのために縦割りの決定する六月から夏休みを挟んで本番を迎える十月まで週に一回以上は放課後に校内の空きスペースや、公民館に集まってダンスの練習をするのだった。
それは各クラスの団結、先輩との親睦を深める期間でもあった。クラスには体育祭というイベントに積極的な者もいれば消極的な者もいた。千紗はそのどちらにも当てはまらず、常に練習に参加しているが、クラスメイトや先輩と率先して打ち解けようとはしていないように見えた。
ただ、教えられたダンスを踊る時に、他の人と同じ振り付けのはずが、なぜか千紗だけ目立って見えていた。特にそのことを「目立って」というより「輝いて」見えていたのは他でもない陽太だった。
続く
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