好きなたぐいの会話(印刷会社)
最初の社会人経験は印刷会社の営業だった。
神奈川県の印刷会社、小田急線で通っていた。
家族経営の有限会社、私の上司は常務だった。
入って3ヶ月までは上司の運転する営業車の助手席に座り、一緒にお取引先を回っていた。昼飯に中華系ファミレスの油淋鶏定食を御馳走になったのを覚えている。
ある日、いつものように外回りしていた時のこと。
とても狭い一方通行の道を徐行していると、50m程先を女性が歩いていた。
上司が言う。「人の年齢ってどこで大体わかるか知ってる?」
私は答えられなかった。
「手の甲のシワでわかるんだよ」と教えてくれた。
好きなたぐいの会話だった。
その会社は1年もしないで辞めてしまった。
入ってから3ヶ月以降は一人で外回りしていたが、辞表を上司に提出した後、また常務の助手席に座る機会があった。
お取引先に大きな駐車場を持っているところがあり、営業先で仕事を終え、玄関から営業車まで少し歩くことになる。
1ヶ月後に辞める私に上司が話しかける。
「俺さ、最近社会の仕組みがわかってきたんだよ。」
好きなたぐいの会話だった。